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マリネッティ「未来派宣言」 1909年 フィガロ誌

訳:森鴎外 掲載誌:「スバル」

一、
吾等の歌はんと欲する所は危險を愛する情、威力と冒險とを當とする俗に外ならず。
二、
吾等の詩の主なる要素は、膽力、無畏、反抗なり。
三、
從來詩の尊重する所は思惟に富める不動、感奮及睡眠なりき。吾等は之に反して攻撃、熱ある不眠、奔馳、死を賭する跳躍、掌を以てすると拳を以てするとの歐打を、詩として取り扱はんとす。
四、
吾等は世界に一の美なるものの加はりたることを主張す。而してその美なるものの速なることを主張す。廣き噴出管の蛇のごとく毒氣を吐き行く競爭自働車、銃口を出でし弾丸の如くはためきつつ飛び行く自働車はsamothrakoの勝利女神より美なり。
五、
大世界の空間を奔れる地球の上を、箭の如く奔ることを理想として、手に車上の柁機を取れる男子は、吾等の崇拝する所なり。
六、
詩人たるものは其の熱心、光彩、喜捨を以てして、世界根本の元素(四大)に對する威激を大にすることに全力を傾注すべし。
七、
美は唯闘に在り。苟も著作品にして攻撃的Aggressivo性質を帯びざる限は安んぞ傑作たることを得む。詩とは不知諸力に對する暴力的攻撃にして、不知諸力はこれによりて人類の用に供せらるるに至るものなり。
八、
吾等は幾世紀の岬の突角に立てり。何故吾等は不可能の深秘門を開かんとするに當りて、背後を顧みんとするか。時間と空間とは死したり。面して吾等は既に絶待に住せり。吾等が同時にあらゆる處に在るべき無窮の速を成就せしは其證なり。
九、
吾等の頌せんと欲するところは戦なり。戦は唯一なる世界の衛生法なり。また軍人主義なり。自由の為に戦ふ戦士の做し出す破壊なり。吾等は人の之が為に肯て死する諸理想を賛美す。又女子に對する輕侮を讚美す。
十、
吾等は博物館、圖書館及あらゆる種類の學士會館を破壊せんと欲す。吾等は道徳主義Moralismo女性主義Femininismo及あらゆる因循なる怯懦を攻撃す。
十一、
吾等の詩は之を勞働若くは遊戯若くは反抗の為めに活動せる大多数に献ぜんと欲す。現代諸大國の革命の多色多聲なる潮流は吾等の歌はんと欲する所なり。試に主なる詩料をい列記せん乎。電灯に照らされたる武器工場及其他の工場の騒がしき夜業、烟を吐く鐡の龍蛇を臙下して厭くことなき停車場、烟突より騰る烟柱の天を摩する工場、刀の如く目にかゞやきて大河の上に横れる巨人の體操者に類する橋梁、地平線を嗅ぐ奇怪なる船舶、鋼鐡の大馬の如く軌道の上に足踏する腹大なる機關車、螺旋の占風旗の如く風にきしめく風船の目くるめく飛行等是なり。

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